今日の「IMFウィークエンド・リード」では、2020年年次総会のまとめをお届けしたいと思います。様々なハイライトを取り上げますが、デジタル通貨や、ロックダウンの雇用への影響に焦点をあてるほか、新しく公開された中東・中央アジア、欧州、アジア太平洋、サブサハラアフリカ、西半球の「地域経済見通し」についても掲載します。
それでは早速、下記をご参照いただければと思いますが、その前に1点ご紹介します。IMF金融資本市場局のトビアス・エイドリアン局長とファビオ・ナタルッチ副局長が本日、最新の「国際金融安定性報告書(GFSR)」の分析章について、新型コロナウイルスが銀行システムにもたらした影響など、議論を行いました。Yahoo Financeのブライアン・チャン氏が司会を務めました。ディスカッション(英語)はこちらで視聴できます。
クロスボーダー決済の未来
今週、IMFのクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事の司会のもとで、デジタル通貨の到来とそれがクロスボーダー決済の未来に何を意味するか、中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関連する利点と課題、国際政策協調の重要性、民間部門の役割について活発なパネルディスカッション(英語)が行われました。「クロスボーダー決済を改善するチャンスがある。そうすることで、世界でも最貧困層の人々の多くを中心に非常に大きな利益を得られるだろう」とゲオルギエバ専務理事は語りました。スピーカーとして、アーメッド・アブドゥルカリーム・アルコリーフィ(サウジアラビア通貨庁総裁)、アグスティン・カルステンス(国際決済銀行総支配人)、ジェローム・パウエル(連邦準備制度理事会議長)、ノル・シャムシアー・ユヌス(マレーシア中央銀行総裁)が参加しました。
多くの中央銀行がデジタル通貨発行の可能性を模索する中で、パネリストはそのコストと利点を注意深く検討すべきだと強調しました。例えば、パウエル議長は米国連邦準備制度が慎重なアプローチをとっており、中央銀行デジタル通貨を導入するかは決めていないと述べました。利点の他にも、サイバー攻撃や、金融政策や金融安定性への影響など、政策面・オペレーション面での難題がいくつか存在し、これらをもれなく評価すべきだとパウエル議長は強調しました。アルコリーフィ総裁は中央銀行デジタル通貨がクロスボーダー決済の頑健性と効率性を高める上で役立つだろうと述べました。また、サウジアラビアがアラブ首長国連邦と試験的なプロジェクトを開始し、現代の技術がクロスボーダー決済の改善にどう貢献できるか模索していると紹介しました。
詳細はディスカッション映像(英語)をご確認ください。また、カンファレンスの全体アジェンダ(英語)もご覧いただけます。このアジェンダには公的部門・民間部門の役割やこうしたテーマについて今後どう世界がロードマップを描くのが最善なのかを取り上げた議論の映像へのリンクも掲載しています。
「大封鎖」と雇用
新型コロナ危機が続く中、数多くの雇用が失われました。CNBCのシルヴィア・アマロ氏による司会の下、データを可視化した20分間のパネルディスカッション(英語)が行われました。このイベントは、IMFチーフエコノミストのギータ・ゴピナートとボーダフォンのヨアキム・ライター氏が参加し、どのグループの人々がロックダウンからより大きな影響を受けているかに関してデータから理解できる点を議論し、非常に有益な情報を提供しました。データから明らかになった点に皆さんも驚かれるかもしれません。
中東・中央アジア地域経済見通し
最新の「地域経済見通し」が分析しているように、中束、北アフリカ、アフガニスタン、パキスタン(MENAP)地域、またコーカサスおよび中央アジア(CCA)の国々は、人命を救うために迅速かつ強力な対策を講じ、感染拡大防止策の負の経済的影響を緩和するために異例の政策を実行しましたが、多くの課題が残っています。
石油輸出国は、ロックダウンの経済的影響と、それに付随して起こった石油需要と石油価格の急落というダブルパンチによって特に大きな打撃を受けました。保健危機対策、所得損失の緩和、社会支出の拡大が今も喫緊の優先課題となっています。しかし、各国政府はまた、危機の後遺症に対処し、包摂性を強化することを含め、復興とより強固な再建のために、基盤作りを開始しなければなりません。
さらに、経済に傷跡(成長、雇用、所得の長期的な損失)が残るリスクが重要な懸念事項となっています。とりわけ、5年後、各国のGDPが危機前のトレンドから予想された水準を12%下回る可能性があると私たちは試算しています。さらに、打撃を受けた観光業に大きく依存している国では、ベースラインのGDPと雇用の両方が今年5%ポイント低下し、その影響が今後2年から5年間持続する可能性があります。また、国外からの送金が回復しなければ、貧困は2020年に3.5%以上増加するかもしれません。記者会見(英語)やブログ記事(英語)、報告書全文(英語)をご確認ください。
欧州地域経済見通し
新型コロナ危機は欧州に多大な犠牲を強いています。24万を超える人々が命を落としました。何百万人もの人々が感染し、家族や友人を失ったり、仕事や企業経営、日常生活に大きな支障をきたしたりしています。
パンデミックによって現在までに生じた経済的影響は非常に大きなものとなっています。最新の「欧州地域経済見通し」では、2020年に欧州のGDPが7%減少すると予測しています。この危機からの復興は不均等で部分的なものになるでしょう。実質GDPは2021年に4.7%回復すると予測されていますが、2021年のGDPは新型コロナ危機以前の予測を6.3%下回り、GDPから約3兆ユーロが失われる計算が示唆されています。こうして失われたGDPは中期的にも大半が取り戻せないことになるでしょう。
スピード面でも規模においても未曾有の政策対応が行われたため、より深刻な結果を避けることができました。一例をあげると、欧州における雇用維持の諸制度によって少なくとも5,400万の雇用がどこかの時点で支えられたと私たちは推計しています。このため、多くの世帯や企業がこの困難な時代の波に飲まれずに済んでいます。欧州連合(EU)全体での政策も貢献しています。リスクは依然として大きく、感染の第二波が深刻化するにつれて悪化しています。相当の不確実性がある点を踏まえると、政策によって復興を持続させるための支援を断固として継続すべきです。記者会見(英語)やブログ記事(英語)、報告書全文(英語)をご確認ください。
アジア太平洋地域経済見通し
アジア太平洋地域は、私たちがかつて経験したことのない最悪の景気後退から回復しつつあります。私たちの最新版「地域経済見通し」(概要:日本語)によれば、第3四半期に回復が始まっている一方で、各国間で成長のエンジンがすべて同じ出力でまだ燃焼しておらず、回復ペースにはばらつきがあります。
域内の数か国で第2四半期の実績値が予想を下回ったことを受けて、IMFはアジア太平洋地域の2020年の成長率予測を下方修正してマイナス2.2%としました。これは、記憶のある限り同地域で最悪の数字となるものです。インド経済は第2四半期に予想よりもはるかに大幅なマイナス成長となりました。同国では、経済が前年比で24%も縮小しましたが、今後の数四半期間に緩やかに回復すると見られています。他の国よりも先にパンデミックの打撃を受けた中国では第1四半期のロックダウン後、景気が力強く回復しており、今年の成長率は1.9%に上方修正され、マイナス領域の数字が多い中で数少ないプラスとなっています。
先進国(オーストラリア、韓国、日本、ニュージーランド)は今も景気後退の中にありますが、ロックダウンの早期終了を受けて経済活動の回復がより早く進んでおり、2020年の成長率は過去の予想を若干上回ると見られています。記者会見(英語)やブログ記事(日本語)、報告書全文(英語)をご確認ください。
サブサハラアフリカ地域経済見通し
新型コロナ流行は、サブサハラアフリカにとって異例の保健危機、経済危機となっています。サブサハラアフリカでは感染症拡大が数か月のうちに数百万の人々の生命と生計を脅かしており、長年の開発の成果や何十年もかかって実現されてきた貧困削減面での進歩も危険にさらされています。
最新の「地域経済見通し」では、サブサハラアフリカの2020年のGDP成長率がマイナス3%と予測されていますが、本地域にとって史上最悪の結果となります。観光と一次産品輸出に依存している国では、GDPの減少幅がさらに大きくなるでしょう。本地域の成長率は2021年に3.1%へと緩やかに回復するでしょうが、多くの国にとって2019年水準への回復は2022年から2024年まで起こらないと見られています。
この地域の国々は、危機の最悪の事態から人々を守るために迅速に行動しましたが、ロックダウン措置は経済と社会にとって大きな代償を伴っていました。サブサハラアフリカの政策担当者は現在、リソースが減少し選択がより困難になった中で経済を活性化させるという新たな課題に直面しています。
この地域の将来を見据えると、パンデミックが今後どう展開するか不透明であるために、復興の持続性が脅かされています。最優先の政策課題は、医療支出と家計・企業への所得や流動性の支援を通じて、人命を救い、生活を守ることです。
資金が限られている中でも、政策立案者は利用可能な資源を用いて迅速に行動しました。記者会見(英語)やブログ記事(英語)、報告書全文(英語)をご確認ください。また、本報告書に関する新しいポッドキャスト(17分間、英語)もお聴きいただけます。
西半球地域経済見通し
新型コロナウイルスによって、ラテンアメリカ・カリブ諸国は世界の他地域と比べても大きな犠牲を経済面でも人的被害面でも払ってきました。本地域が相対的に大きな被害を受けている点は明らかです。ラテンアメリカ・カリブ諸国の人口は世界の8.2%に過ぎませんが、9月末までの症例数と死亡者数を見ると、それぞれ世界の28%、34%を占めています。
最新の「西半球地域経済見通し」(英語)では、本地域における2020年の実質GDP成長率がマイナス8.1%と予想されています。これまでの景気後退とは異なり、雇用は2020年第2四半期にGDPを上回る勢いで減少し、域内で最も大きい5か国の平均で20%、ペルーでは40%もの減少が起こりました。
ラテンアメリカ・カリブ地域がこのように相対的に大きな経済的影響を受けた背景には、同地域経済の構造的な特徴2点が影響しています。つまり、比較的多くの人々が物理的な対人距離が近い仕事に従事している点、また、テレワークが可能な仕事に就いている人の数が少ない点です。雇用のほぼ45%がレストラン、小売店、公共交通機関など、対人接触の多い産業で提供されています。比較のために新興市場国の数字を見ると、同様の産業での雇用は全体の30%強です。逆に、リモート勤務ができる仕事を見ると、ラテンアメリカ・カリブ地域では雇用の20%に過ぎません。これは先進国・地域の半分、新興市場国の平均(26%)よりも低い数字となっています。
非公式部門で働く人の多さと貧困度の高さに加えて、これらの2点の特徴が世界経済の低迷による貿易の減少と金融の荒波とあいまって、経済活動の歴史的な崩壊を助長しました。記者会見(英語)やブログ記事(英語)、報告書全文(英語)をご確認ください。
能力開発トーク:カリブ諸国とコロンビア
今週の能力開発トークのひとつ目では、IMF職員、政府機関職員、外部パートナーで構成されたパネリストがカリブ諸国で自然災害や気候変動への耐性をどのように高めるのが最善か議論(英語)しました。ふたつ目の能力開発トークでは、コロンビア政府当局の担当者が新型コロナ危機の影響緩和を改善するためにマクロ経済枠組みをどう磨いたかを取り上げたディスカッション(英語)を行いました。その他の能力開発トーク(英語)にも関心をお持ちですか?こちらからご確認ください。
マイケル・クレーマー氏 ワクチン投資の緊急性
ノーベル賞受賞者のマイケル・クレーマー氏は2000年代前半に「市場の事前約束(Advance Market Commitment)」と呼ばれるモデルの開発・設計を支えました。こうしたモデルは、もし適切なワクチンが開発された場合に、ワクチン購入国が資金を利用できることを約束することで、発展途上国にとって重要な問題に民間部門が取り組むようインセンティブを与えるために使われています。このアプローチの結果、発展途上国でよく見られた肺炎球菌に対するワクチンの開発に何十億ドルもの資金が投入されることになり、何十万人もの命が救われることになりました。
クレーマー氏による最新研究は、新型コロナウイルスのワクチンの生産・流通をその治験成功後に、どのように加速できるかに焦点をあてています。クレーマー氏は新しいポッドキャストで、ワクチンが医薬品として承認される前にワクチン製造能力にリスク投資を行うことで、ワクチンの流通を6か月以上早めることができると語りました。ポッドキャスト(25分間、英語)とその書き起こしをご確認ください。
アンドラが190番目の加盟国に
先日、IMFはアンドラ公国を最新の加盟国として迎えました。アンドラはフランスとスペインの国境にある小国ですが、同国のアメリカ、カナダ、メキシコ、国際連合代表部を担当するエリセンダ・ビべス・バルマーニャ大使がワシントンDCにて国際通貨基金協定に署名し、IMFに加盟しました。
アンドラは2020年1月にIMFへの加盟を申請していました。新型コロナウイルスに伴う渡航制限を受けて、アンドラのクォータ(出資割当額)を計算するための経済情報収集を含むプロセスはバーチャル形式ですべて行われました。欧州局、財務局、法律局、秘書局、統計局というIMFの複数の部門が協力して、同国の加盟手続を進めました。
アンドラ政府は新型コロナ危機に対策を講じ、持続的な復興のための政策を策定する中、IMFへの加盟によって、IMFから政策助言を受けられるようになりました。特に重要な点として、自国経済の健全性を評価するIMFとの年次協議を同国は行えるようになり、また、IMFによる技術支援を活用したり、必要な場合にはIMFの融資を受けたりすることもできるようになります。
アンドラについて、さらに詳しく知りたいですか?よく知られていないアンドラの特徴5点をまとめました。
IMFの融資制度
IMFのグローバル政策トラッカー(英語)も是非ご確認ください。このトラッカーを通じて、IMFは他国における新型コロナ対策の経験について国々が理解を深められるように支援しています。また、融資トラッカー(英語)も定期的に更新しています。このトラッカーでは、IMF理事会が加盟国を対象に承認した緊急融資支援と債務救済について最新情報を可視化してご紹介しています。
現在までに76か国を対象に緊急融資が承認され、その総額は310億ドルを超えています。直近では、新型コロナ流行の影響に対処するために、カメルーンに対して1億5,600万ドルが承認されました。IMFの新型コロナウイルス対応に関するQ&Aをお探しですか?こちらからご確認ください。私たちはまた、加盟国が新型コロナウイルスの経済的影響に対処できるよう支援するため、IMFの専門家による特別見解書シリーズ(一部日本語)を財政、法律、統計、租税等を含む幅広い分野について継続的に作成しています。これまでに50件以上の見解書が公開されました。
最後に
先週金曜日にお届けしたニュースレターも年次総会について盛り沢山の情報をまとめてご紹介しましたので、もし見逃した方がいらっしゃいましたら、是非ご確認ください。
ご関心をお持ちくださいまして、ありがとうございました。お時間頂戴しましたことに御礼申し上げます。質問やコメント、感想がございましたら、どんなものでも結構ですので、是非Eメールにてご連絡ください。
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敬具
IMF2020年年次総会チーム
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